山只華陶苑・加藤智也さんのすり鉢
以前、幼稚園のお母さん方のために料理教室を開いたことがあります。その中で「すり鉢ひとつで作る!クッキー」をご紹介しました。洗い物も少なくて済みますし、子供たちと一緒に「どろんこ遊び」感覚で作れるのでいいかなぁと思ったからです。ところが半数以上のお母さんがすり鉢を持っていなかったのです!これには正直びっくりし、落胆しました。あぁ、こうやって少しずつ日本の伝統工芸が失われていくんだなぁ、と実感した瞬間でした。
私は母のすり鉢の音で育ちました。すり鉢で山芋を擂る一定のリズムの音が心地よく、そこに母の存在を感じて安心したものです。
多くの人の「母」の記憶は台所で働く音や香りではないでしょうか。キッチン道具は母から子へ受け継がれていくものだと思います。その中でもすり鉢は代表的なキッチン道具。すり鉢をもっとキッチンの表舞台に立たせたい、そんな気持ちをこのすり鉢に託しています。
加藤智也さんのすり鉢について
多治見・高田の青土を使って製作される加藤さんのすり鉢は、その土の性質から表面にざらつきがあります。これが摩擦力となり、擂る力が堅牢になります。いっぽうで大小の粒子が混ざり合った青土を使うことでやわらかさが生まれます。摩擦力の強さと優しさの両方を持ったすり鉢になるのです。
加藤さんが9年をかけて編み出した「波紋櫛形すり目」により、すり鉢の力を最大限に引き出すことができます。このすり目はまるで江戸文様ののように美しいのですが、デザインだけの理由でこのような文様にしているわけではありません。擂るときの摩擦熱が少なく、食材の香りを十分に引き出すことができます。またあまり力を入れなくてもスピーディーに擂ることができ、右利き、左利きに関係なく擂ることができるように設計されているのです。すり目にはガラスの粉を混ぜた釉薬が塗られています。これにより一層堅く、しっかりとした摩擦力が生まれ、すり鉢自体が長持ちします。
このすり鉢は人に見えにくい、隅々に至るまで機能性と精神性が入っているのです。
studio482+のために製作していただいたすり鉢
すり鉢の製作を加藤さんに頼んだ時にこだわったのがそのサイズ。キッチンに置きやすく、すぐに取り出して使えるようなサイズで、青菜ひと束分(4人分)の和え物ができ、器としてそのまま食卓へ出せるようなすり鉢が希望でした。
加藤さんの工房にお邪魔したときに目に付いた「カフェオレボール」のサイズはイメージとぴったり!それをすり鉢にアレンジしていただきました。カフェオレもいいけれど、このすり鉢でスパイスを擂ってインドスパイスティ「チャイ」を飲みたい、ということで「Chai」と命名。
studio482+ではこの「Chai」、加藤さんが個展や展示会で出品している「KATAKUCHIさん」、グッドデザイン賞を受賞した「JUJU mortier 7寸、8寸」など、6,7種類のすり鉢をお取り扱いしています。
する、叩く、潰す、おろす、ボウル、器 5役をこなします!
すり鉢はごまをするだけではありません。
ナッツを叩いたり、
じゃがいもをつぶしたり、
加藤さんのスリ目はにんにくや生姜をおろすこともできます。
すり鉢の中で調理し、そのまま食卓へ。
すり鉢の世界は無限です。
加藤さんのすり鉢は摩擦力があり、スピーディーに、そして香りが立つように設計されていますので、ソースやペストを作ってパスタを和えて、そのまま食卓へ、なんてこともできます。
今も昔も、すり鉢は台所で細やかに働いてくれる、すてきな道具です。
「&Premium 10」で本が選ばれたこと
8月20日発売の「&Premium」10月号〜あの人が、もう一度読みたい本〜。
その中の「キッチンで読み返したい、料理の図鑑」で、ブックディレクターの鈴木めぐみさんが、拙書「台所にこの道具」(アノニマ・スタジオ)を選んでくださいました。
これは私が書いた7冊目の本。
2018年11月に出版されました。
それまでは料理家の視点からずっとレシピ本を書いてきましたが、本格的なエッセイを書いたのはこれがはじめてです。
(あ、でも同じ年の5月に「おむすびのにぎりかた」をミシマ社から出版させていただきました。これはミシマ社のウェブマガジンの連載をまとめたものです。)
毎日、眉間にシワを寄せてパソコンに向かった10ヶ月間。
雪がしんしんと降る冬のあいだ毎日毎日、台所道具を見つめながら、ラブレターを書くようにタイプを打ち続けました。何度も何度も書き直し、これでよし、という気持ちはなれず、また書き直おし...。
16道具のエッセイ、道具説明、24レシピ、この3つで構成されていて、それまでレシピ本をずっと書いてきた私としては、レシピ本の製作が楽に思えるほど(いやいや、レシピ本も相当大変ですっ)難しかったです。
あぁ、もっと国語を勉強しておけばよかった...。
この本は台所で料理をするときの
道具に対する姿勢とか、
立ち方とか、
料理と道具の関係とか、
料理の精神性みたいなところを私なりにやさしい文章で書いたつもりです。
台所に立つときはみんなひとり。誰も助けてくれない。
自分を見つめるにはとても良い場所だと思いますから、そこにフォーカスして書きました。
今はSNSの時代ですから、画像や映像に求めるところが大きくて、
料理の見た目の良さとか、おいしいお店のこととか、そんな投稿が喜ばれる。
それはそれで良いのですけれど、
私は料理家として、台所に立つことの意味や、
台所から観た世界を表現したい。
だから「&Premium」に選ばれたのが心から嬉しかった、涙。
自分の仕事を認められたような。大げさかな。でもそんな気持ちになれました。
本は著者が表舞台に出てしまいますけれど、
その裏ではたくさんの力持ちが一緒に仕事をしてくださいます。
まず出版社(台所煮この道具、ではアノニマ・スタジオにお世話になりました)。
そして編集社(毬藻舎)。
デザイナー(いわながさとこさん)
カメラマン(野口さとこさん)、
装丁とイラスト(ダイモンナオさん)などなど。
各分野のプロが懸命に仕事をして、やっと1冊の本が出来上がります。
そして、その本をどこかで誰かが読んでくれる。
時にはこうしてメディアに紹介される。
1本の糸が少しずつ広がり、繋がっていくのが本ですね。
大げさだけれど、生きていてよかったなぁ。
そんな気持ちにさせてくれるのが本の存在です。
ありがとう、ありがとう。
内田輝さんの演奏会
一昨日はクラヴィコード奏者・内田輝さんを我が家へ招いての演奏会でした。
今年で3回目。恒例になりつつあります。このような貴重な演奏会を我が家で催すことができるのは心から嬉しい。
クラヴィコードは14世紀頃、教会で使われていた楽器。ピアノの原型です。
演奏のためではなく、祈りのために弾かれていたのではないかと言われています。
耳を澄まさないと聞こえないほど音が小さいのが特徴で、この楽器を弾くと神様が聴きに天から降りてくる、なーんて言われています。
クラヴィコードは内田さんご自身が製作しています。それにしても美しい楽器だなぁ。
彼が弾き出すと、自然が共鳴して不思議なことが起ることもあります、ふふ。
さぁ、演奏会のはじまり、はじまり〜。
開演開始は6時で、日が沈みながらのスタート。終わる頃には真っ暗になり、ろうそくの火だけがゆらゆらと灯っていて、聴覚だけではなく、身体全体がとても敏感になっていきます。
内田さん曰く、
入ってくる音楽を受け身で聴くのではなく、自分の耳でその微かな音を聴き取っていくようなイメージで聴くと、より楽しめると思います。音がなくなった瞬間の「静寂」がとても大切です。
クラヴィコードを聴いていると、次第に耳の感覚が変化し、どんな小さな音でも拾えるようになり、心が平安になっていきます。
座禅をしているような感覚。
この繊細な世界を知っているのと知らないでは、世界がまるで違って見えてくる。自分の居る場所が変わってしまったような...。
演奏後はみんなでお食事〜。
夏野菜を使ったお料理を7品+デザートをお出ししました。
冷製コーンスープ
干しズッキーニ、ルッコラ、クレソンのサラダ
ラタトゥユ・ブルスケッタ
枝豆のキッシュ
チーズコロッケ
マッシュルーム・リゾット
バジルペストのパスタ
デザート
来年もやるぞ!
土鍋ラタトゥユ
直売所に夏野菜が並ぶと作りたくなるのが「ラタトゥユ」。南フランスの代表的な家庭料理です。
長野はズッキーニの産地として有名で、この時期、直売所では3本100円ぐらいで売っています。少し前に仕事で神奈川県のスーパーで買ったズッキーニが何と1本299円!!!開いた口が塞がらない値段にびっくり。長野は食材に恵まれているなぁ。おいしい空気と水と食材。この基本の3つが信州にある幸福感は大きい。
〈土鍋ラタトゥユの作り方〉
ズッキーニ1〜2本と茄子2〜3を1.5〜2cmの角切りにする。別々のボールに入れて塩を振り混ぜ、30分ほど置く。
玉ねぎ1個は粗みじん切り、トマト3個は湯剥きする(熱湯に15秒ほど入れて冷水に取って皮を剥く)。
そのあいだにパプリカ1個を丸網でこんがり焼く。真っ黒になったら新聞紙に包み、15分ほど置き、皮を剥く。おいしいパプリカの汁は捨てずにあとで土鍋に入れる。ボールの上にザルを置き、その上で剥けば流れ出た汁がボールに入るので便利。
トマトをざく切りにして鍋に入れ、火にかける。水分をここで十分飛ばしておく。
ここまでが下準備。土鍋で煮込みに入る。
土鍋8寸にオリーブオイル大さじ4とにんにひとかけ(みじん切り)を入れて火を付ける。
にんにくに泡が出て香りが出てきたら玉ねぎを入れて炒める(中火)。このときに塩を少々振ると水分が出やすく玉ねぎの甘味が出る。
最初は水分が出るので蓋をせずに炒める。透き通り始めたら蓋をして蒸し焼きする(弱めの中火)。途中で何回か蓋を開けて混ぜながら、玉ねぎに甘みが出るまで炒める。
玉ねぎを炒めて数分後の状態。↓
最終的にこのぐらいまで炒める。↓
茄子の水分を手でぎゅっと絞って入れ、さっと炒め、蓋をして5分ほど蒸し焼きする(弱めの中火)。
次に、ズッキーニの水分を手でぎゅっと絞り、加えて炒める。
バジルまたはオレガノも加え、蓋をしてしばらく蒸し焼きする(弱火)。
茄子とズッキーニがやわらかくなったらパプリカ(小さめの乱切り。汁も一緒に。)、バジルまたはオレガノ(生またはドライ)、煮詰めたトマトを入れて全体を混ぜ、蓋をして15分ほど煮る(弱めの中火)。
(土鍋に蓋をしてそのままオーブンに入れて180度で20分ほど焼いてもいい。)
蓋を取り、水分が残っていれば飛ばしながら火を入れる。
塩で味を調節し、出来上がり。
我が家ではこれにショートパスタを入れ、パルメザンチーズをかけたり、チーズをのせてオーブンで焼き上げたり、メインディッシュにします。
お客様にはラタトゥユをよく冷やし、パンと一緒に出すことも。
この料理をおいしくする土鍋はこちら。
茄子やパプリカを焼くための丸網
暮らしカバン「BRIDGE」が初入荷
京都で活動されている布作家・山口智美さんのブランド「モーニン」。
カバンや洋服など、性別や世代にとらわれない自由な発想をする山口さんのプロダクトデザインはすっきりとしていて、使い勝手の良いで知られています。
モーニンが製作している定番カバン「BRIDGE」。この「BRIDGE」+暮らしのあらゆるシーンで活躍する多機能カバンをstudio482+のために制作をしていただきました。
元々、私は買い物や仕事に「市場かご」を使っています。市場かごは青竹で作られていて便利に使っていますが、それにソフトさと機能性を加えた布製のバッグにしたらどうなるだろう、というところからスタートしました。
仕事で山口智美さんと出会った時にかばんのことを相談をしたら、すでに彼女はBRIDGEを製作していたのです。
↑山口さんの個展に行って、はじめて「BRIDGE」と出会いました。1年以上前のこと。
山口さん自身、このカバンを自転車の後ろに取り付けて買い物に行っているそうで、サイズは私が持っている市場かごとほぼ一緒でした。早速製作を依頼し、出来上がったのがこのカバンです。
機能1
コンパクトサイズに見えて、実はたくさんのモノが入る。
両側のマチを内側に畳むこともでき、大きなものを入れるときはマチを広げて使えるため、少ない荷物にも、またたくさんの荷物も対応できます。
しっかりした生地なのにやわらかさもあるので、包容力があるのです。
機能2
防水加工のテント地だから水に強い。
機能3
持ち手が3つのバージョンに。
a) 普段は短い持ち手を使う。
b) 肩に掛けるときは持ち手にベルトを付けて肩にかける。長さはお好みに調節してご使用ください。
c) スーパーでの買い物など荷物が多い時は長い持ち手を使う。
機能4
内ポケット4つ付き。
両側に2つずつ、合計4つのポケットが付いています。4つのうち1つは携帯や名刺などが入るサイズ。
機能5
ミニバッグ付き。
丈夫な素材で作られた鞄で、マチ付き。単独でもご使用いただけます。
財布、通帳、500mlのミネラルウォーターなどが入リます。
レストランでレストルームなどに行く時や、銀行、短時間の買い物など、さっと取り出すことができます。
機能6
カバンの中身を見られないように、リネン布が付いている。結び目がついているので、それを結べば完了。
機能7
ボタン付きで、カバンが横に広がらない。
毎日使っても破れず、濡れにくく、ヘビーユースできるカバンです。
実はこのカバンを販売したところ、すぐに売り切れてしまって...。作家さんが一つ一つ丁寧に縫って製作していますので、入荷数が元々、少ないのですけれど。
オンラインショップで在庫がゼロになっていても、ご注文を承りますので、オンラインショップ内の「Contact」でお問い合わせくださいませ〜。